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秋蝉は、もはやかしこに鳴いている、
草の中の、ひともとの木の中に。
「秋先輩」
翌日、帰宅すると、今度はあいつの妹が家の前にいた。
「なんだ、ホームシックにでもなったか?」
予想通りだと思い、思わず唇の端が上がる。
「ううん。違うんだけどさ」
とりあえず玄関に入れる。靴も脱がずにあいつの妹は俺を見た。
「はい、これ」
そう言って差し出されたのは、昨日見た写真。
「これが何か?」
昨日と同じ反応。だからその写真がどうしたというのだ。
「秋先輩にとって、いろいろと不利なんじゃないかなーと思って。この写真」
「だから何だ? 別に不利だろうが何だろうが俺にはどーでもいいことだ」
「ふーん。じゃぁこれネットに出しちゃうよ」
「好きにしろ」
「へぇ。いいんだ。もし出してほしくないなら―――」
あいつの妹は、俺の真正面に立っているくせに更に詰め寄り、こう言う。
「100万円ちょーだい?」
やっぱりそれか。わかっていたが、面と向かって言われると若干腹が立つな。
「どっちでもいいよ。出したいなら出せばいいし、金がほしいなら金やるから。いい加減にしてくれるかそういうの。いやほんとに」
そう早口でまくし立てると、あいつの妹はそれまでの強気とは打って変わって、急に俯いて「今にも泣きそうなオーラ」を出していた。
「じゃぁ、じゃぁ、―――お金ほしい」
正直でよろしい。
「取りに行くからとりあえず中に入れ」
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