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春の太陽は頂点を少し過ぎたあたり。軽い昼食は適度に腹を満たし暖かい陽射しとあいまって眠気を誘った。
そんな陽気の空の下、連れとはぐれ道に迷った二人の男がいた。
京の街を散策中にはぐれてからまだそう時間は経っていない。永倉・山南・原田・藤堂そして斎藤の五人との距離はそう離れてはいないだろう。
だが、と土方は頭を巡らした。
斎藤以外には土地勘がない。個性的な連中の引率は斎藤には荷が重過ぎる。どうせあいつらは好き勝手をするに決まっているだろうと思案する。
このまま、宛てもなく京の街を歩き回っても再び合流できる可能性は低い。
(永倉達だってそう考えるだろう。八木邸に戻るのが手っ取り早いってな。
それならばいっそ、沖田の提案にのってみるのもいいかもしれねぇな。)
花の香に誘われる虫のように人は桜の花に誘われる。
(案外、永倉達もふらふらやって来るかもしれねぇしな。
なんせ、あいつらは無類のお祭り好きだからな。)
ふっと、土方は頬を緩め去年の花見を思い出す。大変な騒動となった情景が瞼に浮かんだ。
それが土方の気持ちを変えさせ、目をいまだ流れる花びらへと向けさせた。
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