2865人が本棚に入れています
本棚に追加
/473ページ
「土方さん…。」
「花見に行くんだろう。
ぐずぐずしてると花を見る前に散ってしまうぞ。」
土方は踵を返すと沖田を置いてすたすたと歩いて行く。
「待ってくださいよ~。」
慌てて駆け寄った沖田が土方の隣に並んだ。はにかんだ笑顔を浮かべている。土方は横目でそんな沖田を確認すると口元を緩めた。
「土方さん…。
ありがとうございます。」
足を動かしながらぽつりと沖田が口をこぼした。
「なんだよ。」
「いつも、私に気を配ってくれていることに対してですよ。
土方さんは優しくて見かけによらず世話好きだから、私はいつも甘えてしまうんです。」
「なんだそれ…」
「永倉さん達とはぐれたのも道に迷ったのも私が物珍しさにふらふらしたせいだし。
土方さんはそんな私を連れ戻そうとして一緒に迷ってしまった…。」
沖田は大きくため息をついて空を仰いだ。歩みが止まりそれに気づいた土方も足を止めた。
「土方さん、
私は口先だけでなく、立派な大人に武士になれるよう努力します。」
沖田は拳を握り強い眼差しで土方を見つめた。土方は沖田の真剣さを感じ取り同じ強い目で見返した。
「わかったよ。
見ててやるからお前のいう立派な武士ってやつになって見せろ。」
「はい。見ててください。」
わざと素っ気なく返した土方に沖田が力強く言った。
二人は短く視線を交わし合った。それからどちらともなく笑みを浮かべると再び目的地へと歩き始めた。
最初のコメントを投稿しよう!