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沖田が足を止めて指差したのは、前方の桜の木の下に立つ二人連れだった。
「あっ、こら総司!
人様を指差すんじゃねぇよ。」
土方は沖田の頭を軽くはたいて睨みつけた。
幸いなことに指差された二人はそれに気づかなかったようだ。
「いたた、すいません。
思わず手が出てしまって。
でも、ほら。
いいものを見つけましたよ。」
沖田が得意げに前方の二人連れを示す。
「女と子供の花見客だろう。あれがなんだってんだよ。」
「いやだなぁ~。よくみてくださいよ。
すごく微笑ましい光景だと思いませんか?
姉弟なんですかねぇ。手を繋いで仲よさ気で、なんだか和みません?」
沖田は優しい眼差しを前方の二人に向けた。幸せな幼い頃の思い出と重ね合わせているのか、どこか遠い目をしているようにも見えた。
「姉と少し歳の離れた弟ってとこか。姉のほうは十七・八。弟はまだ十ぐらいか?
まぁ、仲は良さそうに見えるな。」
土方も柔らかい表情になって前方を見る。沖田も土方も共に末っ子で歳の離れた姉がいる。そのためか、土方は懐かしさを感じていた。
桜舞う暖かな空の下、手を繋ぎ幸せそうに笑い合う姉と弟。 その光景は土方と沖田にとって幼き日の幸せな記憶の形。
そして、失い二度手にすることがかなわないだろう憧憬だった。
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