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◇◇◇
「きゃあ!」
話に夢中になっていた香織は、突然の強い風に驚きの声をあげた。
自然と体が動き腕を伸ばし夜斗を抱き寄せる。風を避けようと腕を上げて着物の袖を顔の前にかざそうとした。
着物の色の薄紅が視界を覆ってしまう直前、香織は前方に男が二人いることに気づいて驚いた。しかも、その内の一人と目が合った。そんな気がして目を大きく見開いた。
その瞬間を狙ったかのように香織の両目に砂埃が飛び込んだ。
「痛い!」
あまりの痛さに香織は両手で顔を覆いしゃがみ込む。涙があふれでるが痛くて目を開けることができない。
夜斗も心配して隣にしゃがみ込み、大丈夫かと声をしきりとかけてくる。
「目に砂が入っただけだから大丈夫。しばらく我慢すれば治ると思うの。
ごめんね、夜斗。少し待っててくれる。」
香織は夜斗に弱々しい声をかけて、瞬きをしようと努力するが痛みがひどくて上手くいかない。
固く閉ざした瞳は涙をこぼすばかりで開くことができない。
焦れた香織が目を擦ろうと手の形を変えた時、頭上から男の声がした。
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