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「本当に行くの?」
人気のない森林の中、目の前にいる亜麻色の髪と瞳を持ち、ローブに身に包んだレイ=フォールという名の少女が、悲しげな表情でそう言葉を漏らす。
俺は今日……誰にも知られぬよう、人を襲うモンスターが多く、人が滅多に寄り付かないこの森の中でこの世界から立ち去るつもりだった。
だが……後をつけられていたようで、共に魔王を倒した仲間でもある彼女が先程、俺の前に姿を現した。
「まさかお前がこの世界で最後に見る人間になるとはな」
「私を連れて行くことは出来ないの? ……私はあなたのパートナーでしょ!」
「……無理だ。俺が魔王を倒すために手に入れたこの魔力石を使っても……恐らく一人しか運べない」
そう言葉を放つと同時に俺は手に持っていた魔力石を握り潰して魔力を全開放させる。
その後、粉々になった魔力石をそっと宙へと浮かせるように払った。
「待ってよ、なんであなたが……世界を救ったあなたがこんな目にあわなければ駄目なの?」
「仕方ないさ。恐怖の象徴が俺になった以上、俺は世界の救世者として最後の責任を果たさなければならない」
そう言葉を交わして間もなく、魔力を放出していた魔力石のかけらが眩い光を放ち、俺の周囲に魔法陣を浮かび上がらせる。
「そろそろ俺は行く」
「待ってよ! もう……会えないの?」
「……魔王を倒すのは俺だけじゃ無理だった、お前が居てくれたから最後まで戦う事が出来たんだ」
さらに魔法陣から目を瞑ってしまうほどの眩い光が放たれ、その光は少しずつ俺の体を包み始めた。
「私は……まだあなたとやりたい事がたくさんある!」
俺の事を思ってそう叫んでくれる彼女の思いに感謝を込め、俺は……自然と手をレイに伸ばしていた。
「ありがとう、お前は最高のパートナーだったよ」
レイが伸ばした手を握り締めてくれたと同時に、俺の体は完全に光に包まれる。
レイの涙で崩れた顔を最後に視界へと映し、俺の体は真っ黒で何も見えない暗く寂しい世界へと入り込んだ。
俺は……自分の世界を幸せにするために自分自身を犠牲にした。
「だからこそ……俺は」
何も見えない暗闇の世界で、手に力を込めて握り拳を作って俺は決意した。次こそは自分自身の幸せを掴んでみせると。
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