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「私にとって、貴方のお父様と話をしている時間は、夢の様でした。聞いた事のない話ばかりでした。人々の生活に根付く、風習や音楽。地を耕して植物を育て、冬に備える技術。食べられない物を食べれる様にし、更に火と道具を使い、いかに美味しく出来るか。その探究心と向上心に、私は心惹かれました」
アロンダイトが激情に耐え切れず、拳を叩き付け、イリアの話を中断させる。彼を抑えていたテレスは怯えた様に彼を見るだけだ。
「貴様の口から父上の話など聞きたくはない! 貴様は父上を殺したのだろう!?」
憎しみと殺意を纏った鋭い目は、悲しみを潜ませる、あくまで柔らかい笑みに受け止められる。
ダイアはテーブルから足を下ろし、足元に置いた斧を掴んだ。戦うならば、迷わずアロンダイトの味方につくと言う態度である。テレスはアロンダイトを落ち着かせようと、恐る恐る手を掴むが、乱暴に振り払われた。
「アロン、落ち着きなさい。イリアさんの話はまだ終わっていない」
テレスではもう無理だ、とハスターは静かな口調でアロンダイトを制する。
「お願いします。聞いて下さい」
イリアは目を閉じ、ゆっくりと首を横に振る。
だが、すぐにそれは口にせず、何かを決意する様に、僅かに沈黙する。
「貴方のお父様に瀕死の重傷を負わせたのは、私達ではないのです」
瞑目し、俯いてイリアは否定する。アロンダイト達が常識として認識していた事を。当然、彼らは信じられない。
「何を今更! ならば何故、父上は帰って来ないんだ!」
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