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更なる言葉を紡ぐ事を躊躇い、イリアは目を伏せて口ごもる。避けられないと知りながら、心のどこかで、あえて自分が告げなくても、と思っていた。
「父上を殺した奴から、父上の話など聞きたくない!」
アロンダイトは再び叫ぶ。イリアの迷いから来る沈黙が、肯定に思えてしまうのだ。
イリアは覚悟する様に唇を噛み締め、アロンダイトを見る。
「貴方には、真実を受け止める覚悟はありますか?」
その表情は真剣で、イリアの紫色の瞳がアロンダイトの黒い瞳を真っ向から見ていた。
「真実? どう言う意味だ?」
アロンダイトは少しだけ嫌なものを感じ、怒りの中に疑いを混ぜてイリアを見る。
「貴方のお父様とお祖父様……それから、貴方達が行って来た事の真実です」
イリアの瞳には、アロンダイトしか映っていない。今にも襲い掛かりそうなダイアも、戸惑いキョロキョロしているテレスも、冷静に成り行きを見ているハスターも映っていない。この、幼さの残る一人の少年をその瞳に映している。
「だからどういう意味だと聞いている」
思った返答が返って来ず、アロンダイトは苛立ちをつのらせる。嫌な予感をごまかす為でもあった。
「私達、魔族・魔物は十五年前、貴方のお父様がこの城に来て、そして、言葉を交わしてから、私の命では人々を襲っていません」
イリアはきっぱりと言う。
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