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「アロン落ち着きなさい。イリアさんの話を聞くんだ」
ハスターは低い声でアロンダイトを諌める。ここまで激情に流される彼は今まで見た事がない。
「こんなでたらめを黙って聞けと言うのか!?」
「アロン二度目だ。落ち着きなさい」
正面から見据えられ、激情に任せた姿をその目に映し、ハスターはアロンダイトを諌める。旅の原動力であった、世界平和は魔王討伐と同一の意味合いであり、そこに彼は父の仇討ちを含ませていたのだ。
「……ハスターの旅の目的は、魔王に会う為……だったな」
それを思い出したアロンダイトは、興奮に乱れた息を整える事もせずにハスターを睨む。
「ああ、そうだ」
ハスターはそれを肯定する。アロンダイトが今、なにを思っているのかは想像出来ているので、動揺はない。
「まさか、魔王の味方に付こうと……そのつもりだったのか?」
彼の想像通りにアロンダイトは仲間であるハスターに敵意すら向ける。
「この世の理に、世界の常識に、全てに理由はあるのだよ」
ハスターは旅の中、何度も口にした言葉を再び口にする。
旅の目的を尋ねられた時、世の不思議な物を目にした時、美しい光景や惨劇を見た時……幾度も聞かされた言葉は、確かな重みを持っている。
「アロン、私は魔王と言う存在にある疑問を抱いていた。その疑問を抱く様になったのは、君のお父上が魔王城を訪れ、殺されたと言う噂を聞く様になってからだ」
語るハスターの後ろで、イリアは啜り泣いている。それはまるで、アロンダイトやダイアからイリアを庇っている様に見えた。
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