序章

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 キョウコは警備兵を刺激しないようにゆっくりとした動きでメタルスレイヤーを手に取ってみせる。 「はい、既知のごとく破片には通常の物質には無い奇妙な特性が備わっております。例えば重量が突然変化するため、このように台座には重量感知等のセキュリティは備えておりません。また時に綿より軽くなるにも関わらず、硬度はダイヤモンドよりも高く、なおかつハンマーで叩いてもびくともしないほど靭性が高いという性質を持ちます。現在のところ『破壊の使者の破片』以外でこのような特性を持つ物質が観測されたことはありません」  キョウコはメタルスレイヤーを台座に戻すと、やはりゆっくりとポケットから何かを取り出した。それは彼女の握りこぶしよりも少し小さい透明な容器で、中には一回り小さな金属質の立方体が入っていた。 「これよりメタルスレイヤーの力をお見せします。その名のごとくメタルスレイヤーは金属を侵食し、その映像も騎士団の書庫に保管されておりますが、実際にその様子をご覧になることは稀かと思います。今回は本部に了承を取りまして、特別に侵食の様子をお見せ出来ることになりました。侵食はすぐに始まりますのでお見逃しになりませんよう」  キョウコは聖人の目線がしっかり手元の容器にあること確認すると、容器の蓋を注意深く持ち上げ始めた。  容器が持ち上がりメタルスレイヤーとの射線がつながった瞬間、それまで容器の底に足を落ちつけていた金属塊がするりと、まるで容器の底に吸い込まれるようにして消えてしまった。あまりに突然過ぎて本当に容器の底に穴が開いたようにも見えるが、容器には別段変化は無く、床に金属塊が転がっているという訳でもなかった。  そばで見ていた護衛や警備兵のほとんどは実際に見るのが初めてであったらしく、驚嘆したようにその険しい表情を緩ませていた。  聖人は表情こそ変えていなかったが、目は驚きを隠せないように見開かれていた。キョウコはその様子を確かめると、金属塊が入っていた容器を元のように閉めポケットにしまい込むと、姿勢を正して聖人の男の方へ向き直った。  聖人の男は自身の動揺に気付いたのか、はたと表情を引き締めた。 「大変面白い。報告書にはもちろん、私自身の経験としても有意義な時間が過ごせた」  周りには分からないようにちらりとキョウコを見つめると、聖人はニヤリと笑った。 「と感じている」 「ありがとうございます」
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