序章

12/14
前へ
/14ページ
次へ
 部屋の外の護衛たちは警備兵の倒れこむ音で異変を察知していた。しかしキョウコがことを起こしてから部屋を飛び出してくるまでの時間がごく僅かであったためか、詰所へ向かった者や、あるいは部屋の中へ突入を仕掛けて来た者はいなかった。  キョウコはそれを目の端に捉えつつ、特に誰へ斬りつけるでもなく、しかし力強く刀を解き放った。  その一振りで警備兵のバイザーとサブマシンガン、天井の監視カメラ、そして石の扉を開けた操作盤までもが真っ白にひび割れた。そして返す刀で護衛たちがばたばたと床に倒れこんでいく。  キョウコは不意に発砲する可能性のある警備兵の射線から外れるようにしながら、音も無く彼らの元へ駆け寄っていく。そしてバイザーが白濁したヘルメットを外そうともがく警備兵に向けて勢い良く刀を突き出した。ちょうど額の辺りを刀で突かれた警備兵は声も無く崩れ落ちる。  倒れている周囲の人間へ一度ずつ蹴りを入れて、全員が確かに気を失っていることを確かめたキョウコは、一旦破片が安置されている部屋へ戻った。そして布が被せられているメタルスレイヤーを手に取ると、隙間が出来ないように何度も確かめながら何重にも巻き締めていく。そうしながらも部屋の中をうろうろと歩き、気を失っていない者がいないか確かめていった。  やがてメタルスレイヤーの輪郭が分からなくなる程度に布を巻いたキョウコはそれを脇に抱えて再び通路へ飛び出した。 (……残りの警備兵は三人)  詰所に配備されているもので全てのはずである。  キョウコは刀を振るって通路の角から見える監視カメラにひびを入れると、歯医者が使うような小さな鏡で詰所の様子を伺う。  詰所はキョウコの予想通り混乱状態に陥っているようだ。鉄格子の前には本来ならふたりの警備兵が立ちふさがっているはずだが、どうやらひとりは詰所に半身を入れた状態で何かをしているようだ。警報が出された様子が無いのも彼女にとってはありがたい。警報が出されるケースも想定内ではあったが、その場合脱出までの時間が極端に短くなり、最悪の場合、上階にいる特殊部隊とも一戦交えなければならなかった。  キョウコは布でくるんだメタルスレイヤーを一旦床に置くと、刀を両手で支えるようにして持ち、鉄格子のほうへ向けた。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加