序章

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 メタルスレイヤーを使えば鉄格子など簡単に排除できるはずだが、その程度のことは騎士団も承知している。鉄格子のように見えるそれは、実は花崗岩を黒色に塗装したものを樹脂で固定したものであり、メタルスレイヤーの侵食能力でそれを排除するのは不可能だ。しかしキョウコは落ち着き払って格子と天井との継ぎ目を刀で指し示していく。  一見して何も変化がないようにも見えるが、よく見れば樹脂に覆われていない格子の一部に薄い切れ目が入っている。名刺も入らないような隙間である。  キョウコはわずかに三十秒程度で、天井や床とつながっているほぼすべての格子を切断してしまった。つながっているのはわずかに一本だけで、それも半分まで切れ目が入っているようだ。これではすぐに倒れてしまいそうなものだが、何らかの負荷を与えて切断したものでないせいか、格子は比較的安定した状態を保っているようだ。  キョウコはその状態を確認して刀を置くと、今度はスーツの内ポケットへ手を入れてごそごそと動かす。そしてスーツから手が離れると、そこにはプラスティックで出来た黒い拳銃が握られていた。警備兵は抜かりなくボディーチェックをしていたはずだが、果たしてどこへ隠していたのだろうか。  拳銃の安全装置を外し、セレクターを単発射撃に切り替えると、刀で最後に残った格子を切り離し、それから格子の上部へ向けて一発だけ弾丸を放った。銃弾は狙い誤らず格子に命中し、通路に乾いた発砲音が響く。  銃弾によってわずかに衝撃を与えられた格子は軽くかしいだあと、元から鉄格子の前にいた警備兵と、銃声に気付いて詰所から飛び出してきた警備兵とをまとめて巻き込んで倒れていった。  凄まじい重量の格子に倒れこまれたふたりの警備兵は、失神してしまったのか全く動く様子が無い。キョウコは作戦が成功したことを悟ると、銃と刀、それにメタルスレイヤーの包みを抱えて詰所へと走りだした。  キョウコが詰所へ駆け込むのと、最後に残った警備兵が警報を出すためのレバーを握るのは同時だった。そしてキョウコが刀を閃かせるのと、警備兵がレバーを下ろすのも同時だった。実際には紙一重の差でキョウコの刀が優っており、勢いよくレバーを下ろしたはずの警備兵の手には切り落とされたレバーだけが残っていた。
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