序章

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 山間部では雪がちらつき始め、都市部でも防寒具を着込んだ人々が見慣れてきた年の暮のある日、重複十字星騎士団第四支部に黒い自動車が到着した。それは庶民の間でもよく名の知れた高級車であり、その自動車の主が尋常の者でないことが一目で分かる。しかしガラスというガラスは黒いフィルムで覆われており、その人物が一体誰であるのかを特定することは出来なかった。  重複十字星騎士団の支部は大国の首都にある。しかし警察機関のように大統領や国王を守護するためにあるようではないらしく、多くの場合、遠く離れた位置に建っていた。第四支部も例にもれず首都の中心部から離れた市街にあったが、他の支部がそれでも大通りや公園などに面しているのに対し、ここはビジネス街の真っ只中にあった。  黒い自動車がそのとても広いとは言いがたい道路の脇へ横付けすると、一呼吸置いて黒いスーツで身を固めた男達が降りてきた。合計で六人、みな一様に巨躯である。一番小柄な者でも並の男が突進してきたぐらいではびくともしなさそうな体格だし、一番大柄な者に至っては自家用車くらいなら引きずって行ってしまいそうなほどだ。  黒いスーツを着た男達はどうやら誰かの護衛のようだ。道路側に降りた者は向かいの建物や道路を、第四支部の側に降りた者は歩行者の様子をそれぞれその鋭い眼光でねめつけた。万が一、主を傷つけようとする輩が潜んでいたらことだ。  実際、一昨年は第五支部へ視察に訪れた聖人が襲撃を受けた。騎士団に抵抗するグループの青年による単独犯だったが、不意を突かれたために護衛のひとりが怪我を負ってしまった。これが熟練した者のしわざなら、護衛はおろか聖人が命を失っていたかもしれない。  それからというもの、騎士団は成人の査察に伴う護衛への考えを改めた。事件の少なさから鈍りかけていた彼らへ再訓練を施し、また装備も最新技術の力を借りて増強した。スーツの下には防刃、防弾仕様のボディーアーマーを着用し、ひじやすね、関節の各所には強化プラスティック製のプロテクターを付けている。スーツ自体も難燃性の素材だ。また拳銃も騎士団が護衛たちのためにあつらえた特別製である。採算性を目的としないがゆえの超高性能、超安定性は彼らや聖人たちの命を保障している。
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