序章

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 周囲の安全を確保した護衛たちは第四支部の側にいた男へサインを送った。外見からはそれと判別できないが、彼が護衛たちの隊長格であるようだった。  全員分のサインを確認した隊長は、歩道に面した後部ドアを軽くノックした。それからその体格に似合わない優雅な仕草で後部ドアを開けた。  車内から姿を現したのは、えらく尊大な顔をした中年の男だった。護衛たちほどではないが長身だ。それに輝くような金髪、渋い目鼻立ちをしている。灰色の高価そうなスーツを着こなすだけの均整のとれた体格でもあったが、その表情がすべてを台無しにしてしまっていた。  彼こそが今期の査察に訪れた聖人である。朝一番に専用機で騎士団本部からやってきた彼は休む間もなくここへ訪れたのだ。半年に一度とはいえ、その査察も儀礼的なものだ。ほとんど流れ作業的に確認作業をし、必要な書類にサインしさえすれば終わりである。午前までに査察を終えてしまえば今日の予定はこれで終わり。そう考える彼の顔には面倒くさそうな表情が浮かんでいた。  聖人の男は鼻息ひとつ鳴らすと、もの言わず歩き始めた。黒い自動車の周りにいた護衛たちは彼を警護すべく彼の周りへと移動する。そしてそのままつかつかと歩き出す聖人に合わせて移動を始めた。  半年ごとにある聖人の査察はいつも決まったことの繰り返しだ。世界の支部へ散らして管理している十二個の『あるもの』の安否を確かめるのだ。安否とは言っても、その『あるもの』は支部ごとに万全の状態で管理されているため、査察では来て、見て、帰るだけである。それが分かりきっているためか、自然と聖人の男の足取りは速くなる。  彼らが上っているのは第四支部正面の石段だ。この支部が建立したころが存在し、数年前の改装の際にも残された由緒ある石段である。人々が隙間無く座れば軽く三百人は並んで記念撮影出来ることだろう。  公式な会合や催しの際には石段の中央に刺繍付きの赤い絨毯が敷かれることもあるが、この査察はあくまで非公式なもののため、石段は普段と同じ殺風景なままである。 「ようこそおいで下さいました」
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