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一同が歩くにつれ見えてくる様々なもののうちのひとつ、それが目の前のガラス戸だ。ガラスの表面に騎士団の紋章が描かれているほかは、アルミ枠にガラスが嵌められた、何の変哲もないガラス戸のようだ。それこそ防弾処理がなされているかどうかも怪しい。ただ、このガラス戸はその向こう側とこちら側とで現実との際を示すためにあとから作られたものなのかもしれない。それほどに、その先の光景は異常なものだった。
ガラス戸を抜けるまでもなく目に付くのは天井に張り付いた黒点だ。それが無数に、それこそ満天の星空と見紛うばかりに張り付いている。聖人の男は黒点のひとつを確認するように一瞬だけ睨みつける、彼、いやこの場にいる全ての者が黒点の正体を知っているのだ。
監視カメラ、それが黒点の正体である。天井の黒点は半球状の黒い不透明なケースに覆われた監視カメラだった。同じく半球状のひとまわり小さいカメラは三百六十度自在に回転し、この通路を通るものを一挙手一投足すら見逃さず記録に残し続けている。もちろん聖人がカメラのひとつを睨んだのも漏らさず記録されたことだろう。
監視カメラの星空の下、次に見えるのは黒色の鉄格子と数人の警備兵だ。警備兵はごつごつとしたボディーアーマーやサブマシンガンを隠そうともせず、しかも鉄格子の両脇にいたふたりは聖人たちの方に銃を向けて警戒していた。どちらも顔を見せない加工がされたフルフェイスヘルメットを被っており、表情をうかがい知ることは出来なかった。
「止まれ」
一同が鉄格子まであと数歩というところまで近づいたとき、ふたりの警備兵はほぼ同時に言った。その声とともに鉄格子の左脇の壁が動いた。どうやら警備兵の詰所がそのあたりにあったらしい。平坦な壁の一部がぽっかりと開いて、中からもうひとり警備兵が出てくる。
「本日査察される予定の聖人様方ですね。身分証を確認いたしますので、そのままでお待ち下さい。確認のため申し上げておきますが、これより先は『破壊の使者の破片』が安置されている機密区画となります。不穏な態度をとった場合は、たとえ聖人様とはいえ身の安全は保証されませんのでご注意下さい。また武器や各種データを保存できる媒体は全てここで預からせていただきます。よろしいでしょうか?」
聖人の男は返事の代わりにと軽く頷いた。
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