序章

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 騎士団の建物は十年ちょっと前の一斉改装以来、基本的に電子錠である。しかしこの鉄格子には未だに電子錠が取り付けられたことはない。そもそも『あるもの』、つまり『破壊の使者の破片』が安置されている部屋への入り口には頑強な扉がついており、鉄格子をつける必要はもとより無いと言っていい。この鉄格子は第四支部の正面玄関と同じく由緒ある鉄格子であり、これを使うのはほとんど儀礼的なものになっている。もちろんこれによって多少なりと安全性が高くなっていることは確かだが。  警備兵は三本の鍵を差し込み終えた。上部に三本の鍵が刺さった錠前の正面には、目盛りのついた歯車のようなものが付いている。警備兵は勝手知ったように、しかし慎重にダイヤルを回す。右に左にと三回ほど回したところでようやく仕掛けが解かれたようだ。警備兵が力を加えると、錠前は重い金属音がして上下ふたつに分かれた。 「どうぞお進みください」  錠前を外した警備兵は先に鉄格子の扉を開け、その向こう側に立った。  一同は若干狭いその扉を順に抜け、その奥に待つ破片が管理されている部屋へと向かった。最後に二名の警備兵がくぐり抜けていったのを確認すると、残った警備兵が扉を閉め、再び錠前を掛けた。  鉄格子を抜けた先も白い通路や監視カメラの星空は続いていた。ようやく鮮明になってきた奥の曲がり角もまだ二百メートルは先だろう。  この長すぎる通路もまた防犯上の意味がある。一箇所曲がり角があるとはいえ、それ以外には隠れる場所もなくただ真っ直ぐなこの通路は、破片の防衛という点に置いては大きな利点である。もし奥で破片が奪われ、何らかの方法で敵が武装していたとしても、警備兵たちは鉄格子を隔ててバリケードを敷くことが出来る。出入りは詰所の前を通るこの通路だけであるし、通路そのものも巨大な一枚岩を掘り抜いて作られており、トンネルを掘って進むのも困難だ。何かことが起きても警備兵はゆっくりと増援を待てばいいという寸法である。  それに警備兵は聖人一同に付いて行ってしまった三人を除いても、まだ詰所に三人控えている。加えて破片を武器として使われたときのために騎士団が用意した特殊戦闘部隊が二十五人、戦闘に特化した力を持つ聖人が最低ひとりはこの第四支部内に駐留している。いざとなれば地元警察も応援に駆けつける万全の体制だ。
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