序章

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 扉が開くにつれてあらわになる扉の厚みは、女性にしては長躯なキョウコの腕を広げても石の扉の厚みに届くか届かないかというところだ。これだけの大きさであれば扉自身の重みも相当なものだろう。開く速度がのんびりとしているのも無理からぬことだ。  石の扉はたっぷり五分間掛けて開ききった。扉は壁に少しめり込んだ状態で止まり、背景の一部になった。奥にも同じような扉があったが、こちらには通用門のような簡易的な扉が中央に付いていた。 「こちらで金属製品をお預かりしております。第四支部にて管理しております『メタルスレイヤー』は金属を浸食するため、扉を開く前にこちらの金庫へ保管しておくことをお勧め致します」  そう告げる警備兵の示す先に、やはり石の小さな扉がある。ここまでの過程で銃器などの金属製品は既に警備兵へ預けているため、残りは勲章や眼鏡のフレームなどの小物となる。キョウコが身につけている眼鏡の縁はべっ甲製であるため、今期の査察で石の金庫へ保管されるのは聖人の上着のみとなった。  警備兵の手によって丁寧に畳まれた聖人の上着が金庫に納まると、簡単なねじ式の錠がかけられた。これは防犯上のものというより、金属を浸食するという『メタルスレイヤー』の査察中にその中身がさらされないようにするためといった程度の配慮なのだろう。  警備兵は錠に不備がないか確認するように二度三度金庫を引いた。確認が済むと、警備兵は奥の扉の脇へ移動した。扉に掛けられていた錠を外し、観音式になっている扉を引き開けると、一同は警備兵に誘われるままにその扉を抜けていった。  護衛のうち四人と警備兵ふたりは部屋の外で待機するようだ。また扉を抜けた護衛ふたりは入ってすぐの両側の壁際で待機し、三人目の警備兵は聖人とキョウコの前を先導していった。  その部屋の中央には奇妙な形をした篭手が安置されていた。さきほどまでの通路と同じ材質をした石の台座によってキョウコの腹の高さくらいにまで持ち上げられているそれは、光沢の無い黒色で、天を仰ぐような形で台座に置かれている。 「これが……メタルスレイヤーか」  簡単な歴史やその脅威程度のことであれば、子守唄で歌われるほど世間一般にも破片の知名度は高い。その不思議な力も、奇妙な特性も、騎士団の入団研修で学ぶことではあるが、聖人も含め破片をこれほど間近で見る機会はそう多くはない。
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