事の始まり

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この王女―――良い意味でも悪い意味でもこの国そのものだ。 本来の気質がそうさせるのか、育ちのせいか――のんびり……というか、ぼんやりというか……おっとりとした性格をしていた。 「………そう言えば……一昨日ぐらいですが、エリザ様が荷物を抱えていたので、代わりにお持ちしたんですが…………」 「――――知っているわ」 青年の言葉を遮る。 本人から既に話は聞いていたのだ。 『聞いて、ファーナ。私ったら、カルに荷物を持ってもらったのに、何もないところで二回も転んでしまったの』 朗らかに人事のように話す姉にイルファーナは頭を抱えた。 (……何故楽しそうに言うの………姉様……) 妹として長い月日を過ごしてきた、と思うのだが、まだまだ姉を理解できない。 それでも大好きな姉がこの国を継ぐ。 他国に気にもされないこの国では、王族といえど恋愛結婚が多かった。 国王に野心が少なく、政略結婚になりにくかったのだ。 王女たちの祖母は珍しく隣国フォーレンから嫁いできた姫だった。 「………でも、王女様の御祖母様は隣国フォーレンのお姫様だったんですよね。その誼みはないっすか?」 「無理よ。付き合いがないし、そもそも御祖母様がこの国に嫁いできたのだって奇跡よ」 王女の言葉に青年は笑う。
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