市井止詩という青年

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 そのための1時間早い出社だった。アパートと会社の中心の公園で1時間たっぷりと、仕事へと心を切り替える。全てはゲームのために。 「だけどなぁ……」  毎回のことだが、心は折れる直前だった。この1時間、この1時間があれば次のダンジョンに進める。レベルだって上げられる。レアなアイテムを探すことだってできる。  この1時間がとてももったいなかった。 「でもなぁ……」  少しだけ、と思ってはじめれば確実に遅刻する。そのことをよく知っているから自分の気持ちをギュッと押さえつけ、部屋を出た。  空に手を伸ばし、腕時計に目を向ける。公園を出るまであと50分以上はある。 「ハァ……」  手をゆっくりと下ろして、腕で目を覆う。当然、世界は黒く染まってしまう。  ……マンガを読みたい。遅刻するから却下。  ……ゲーム屋を覗きたい。やっぱり遅刻するから却下。  ……遊びに行きたい。基本的に逃避なので却下。  ……やっぱりゲームがしたい!! 当然、きゃ――― 「お兄さん、暇してる?」  突然の声に止詩の思考は停止した。
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