儚き祈り。強き願い。

3/14
前へ
/41ページ
次へ
「久方よの。よもや、見忘れたのではあるまいな?」 怯える大男と迫る大男。 何とも滑稽な図だが、当人達は至って真面目である。 崩れた態勢を慌てて立て直しひれ伏すと、震える声を精一杯張って答える僧侶。 「わ、忘れる筈などございません、弁慶殿には御恩がございます故っ」 言い終わるか否か、弁慶は僧侶の後ろ襟に指を差し込み、グイと引き上げて無理矢理立たせ、顔を上げさせた。 「義経様。この者が快く、我等を案内(あない)してくれるようです。ほれ、我が主君に名を名乗らぬか」 「ひ…常陸坊海尊(ヒタチボウカイソン)と申しま…すぅぅ…」 弁慶が後ろ襟をグイグイ引き上げるせいで、首が締まって苦し気な海尊を気の毒に思った義経は、弁慶をやんわりと窘める。 「何故(なにゆえ)にかような扱いをするのだ。如何な理由があろうとも、今は客人であるぞ」 「恐れながら申し上げます。この海尊は、先の延暦寺との小競り合いを起こした園城寺(オンジョウジ)の僧兵にございます。本来ならば首を切り晒し、命無きところにございますれば、この弁慶と契りを交わし、今日(こんにち)に至っておるのでございます」
/41ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加