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尤も、とでも言うように義経を始めとした仲間達は、弁慶の周りで繰り返し、首を縦に振っている。
「…ふん。有綱殿に免じて、今日のところはこれくらいにしておいてやるわい」
その様に居心地の悪くなった弁慶は、また海尊の背中を突き飛ばすように強く叩き、皆に背中を向けて頭を掻いた。
海尊は有綱に深々と頭を下げ、呼吸を整えると、義経に向き直る。
「では、ご案内致します。踏み均されてはおりますが、山道故お気をつけ下さいますよう」
先程の怯えた状態とは打って変わって大分落ち着きを取り戻した海尊は、道々義経達とたわいない話をしながら歩を進めて行く。
緩やかではあるが長い山道は、意外に体力を要する。
冷ややかな風が吹いているというのに汗を始終拭いながらの歩行、また歩調の乱れより皆の疲労が頂点に達しつつあるのを海尊は察知し、少し拓けた場所へと皆を誘導した。
「ここが山頂にございます」
海尊の手の指し示す先を、さぞや絶景と胸躍らせた皆は、眼下に広がる景色に愕然とした。
裏手からは登った事など無いものだから、余計に判らなかったのだ。
郎党達はへたり込み、義経は余りの衝撃に小さな街並みを眺める以外に何も出来なかった。
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