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そんな中、いち早く冷静さを取り戻した有綱が問いかける。
「海尊。まさかとは思うが、先に見ゆるは大和国で無かろうか」
「はい、左様にございます。
京も整然として美しくありますが、なかなかどうして、大和国も引けを取りませぬ。
それに今は秋色に染め上げられたこの吉野も、冬を経て春を迎えますれば…慎ましくも華やかな彩りを我らに見せてくれるのです」
「ああ、やはり…」
膝を落とし、義経が呟く。
(船は豊後国を目指していた。
それが京に程近いこの吉野山に引き戻されたとあっては、其方には利も縁も無いという事か。ならば…)
「海尊。京を通らずに下総国へ行くには、どう抜ければ良い」
「下総…難しき事を申しますな…」
海尊は目を閉じ、唸ってしまった。
郎党達は義経の考えが見えず、不安の色を隠そうともしなかったが、弁慶だけはただ黙って義経の言葉を待っている。
そのうち、痺れを切らした有綱が義経の前に出た。
「義経殿。早い事動かねば、鎌倉殿の追討に遭いましょうぞ。早急なる決断と采配を、一同願っております」
皆の視線が、義経に一斉に注がれる。
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