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顔を伏せて目を閉じ、弁慶の声が徐々に耳遠くなっても、自責を止める気にはなれなかった。
弁慶は無反応な義経の顔を覗き込み、眉間に指を二本当て義経の注意を促すと、フッと小さなため息をつく。
「…果たして、某が義経様の御為に継信殿や忠信殿と同じ事をしても、そのようなお顔をして下さるのでしょうか…」
そう言って、寂し気な顔をして見せた。
何か言わずとも、やはり自分の胸の内に気づいていたとは、何と賢(さと)い男か。
弁慶・忠信・継信と、勿論他の郎党達もそうだが、自分は人に恵まれているのだと、改めて思い知らされる。
そう何時までも、沈んでばかりは居られない。
忠信は一度も約束を違えた事はなかった。
月光の中で浮かび上がった矢羽の白き雨の中、必ずや忠信は抜け出して来ると信じよう。
今の自分に出来るのは、大将として振る舞う事。
暗がりの中、まばらに打ち上げられた人影をざっと数える。
残騎少数、しかも一騎と数えられぬ女も混じり、ここで襲撃されればひとたまりもない。
せめて現在地を把握し、雨露凌げる場を探して皆を休ませなければ…と、義経は考えていた。
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