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空がほんのり白んで来た頃、皆が次々と気を戻し、ようやくこの場から動ける準備が整う。
しかし水を吸った衣は重く、女人はなかなか歩を進める事が出来ない。
特に静は体調が悪いのか、時折口元に袖をあててうずくまってしまった。
理由は何にせよ、静が皆の足手まといになっているのは周知。
義経は静を抱え、鬱蒼とした茂みに皆を先導する。
草をかき分け進んで行くと、幾分拓けた道に出た。
山道だろうか。
空は高き木々より垣間見える程度、陽光差したとて視界の悪さは察する事が出来る。
幾分踏み均(なら)されているとは言え、獣道とあまり変わらない。
草葉がカサカサと音を立てるたび、狐狸でも出て来そうだ。
「義経様、あれを御覧下さい」
弁慶の指した先には、小さな屋根が見えた。
「某が見て参ります」
皆をその場へ留め置き、豪快に草枝を払いつつ進んで行くものだから、見る見るうちに道が出来、視界が開けて行く。
弁慶が手をかけた途端、朽ちた扉が崩れ落ちて半開になり、中に微量の光が差し込む。
人の気配は無い。
弁慶に手招かれ、近寄った義経達の足元には、泥にまみれた太い紐状の物が落ちていた。
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