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郷御前がそれを拾い上げ、泥を袖で撫で払い、義経に渡す。
「鈴緒…でございますね。」
縄の先に鈴は無いが、何かを結び付けていた痕跡はある。
周囲には壊れた木箱もあり、ここが信仰の対象物を安置していた小さな社であった事が伺い知れた。
中に入ると天井に多少の亀裂はあるものの、雨風を凌ぐには十分。
ここで皆を休ませる間に部隊を二分し、一方は義経率いる偵察隊、もう一方は静や郷を守り、目的地まで送り届ける部隊とした。
出立間際、郷と静には「数日過ぎても自分が戻らぬ時は、郎党達と一緒に山を下り、故郷へ戻られよ」と話し、護衛の郎党達には道中入り用の際は金子(きんす)に換えるよう、少ないながらも高価な財宝を手渡す。
郷は
「お迎え、お待ち申し上げております」
と、涙を浮かべつつも素直に受け入れてくれたが、静は体調の悪さも手伝ってか不安がり、なかなか首を縦に振ってはくれない。
出来る事なら皆を連れて行きたいが、この状況下でぞろぞろと山の中を歩くのは見つけてくれと言わんばかりの愚行。
今は、押し問答を続けている場合ではない。
縋る静を振り切り、義経は偵察に向かった。
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