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一方、ここは京より幾分離れた山の奥。
積まれた枯れ葉の上、微動だにしない男の体が横たわる。
深く大きく呼吸してはいるが、鎧の隙間を縫って入り込んだ矢は数本有り、夥(おびただ)しい流血が男の体を蝕むに、そう時間を要しないのは明白。
あの堀川を出られたのは、自分一人。
この有り様を知らせに走ってくれる者など、誰もいない。
せめて鐙(あぶみ)に足をかけられれば、我が主の元へ参ずる事が出来るのに…
傍らで寄り添う馬の顔を一撫でしつつ、男の心は口惜しさでいっぱいになった。
この後、鳥に啄まれ、獣に引き裂かれる我が身では、主を守り通す事など到底叶わぬのは分かっている。
『ああ、何者でも良い。
我が志を継いでくれるなら、例え鬼であろうと望みのまま、この身命を差し出そう』
薄れ行く意識の中、男はそう強く願いながら静かに目を閉じ、最後の時を待つ。
だが、微かな音が男の耳を掠めた。
幻聴かと思われたそれは、徐々にはっきりと聞こえるようになり、軽やかに枯れ葉を鳴らしながらこちらに近づいて来る。
最初は素早い足取りだったが、男に近づくにつれ緩やかに変わり、しばらくすると葉音も止んだ。
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