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相手の冷たい物言いは、男の一縷の望みを絶ってしまった。
頬を、大粒の涙が伝う。
「そう…か…。ただ一人、お仕えしたいと想い願う主君との約束を果たそうとするは…御仁の仰る通りやも知れぬな…」
男の言葉をただ黙って聞いていた光の塊は、自分の中に何かが嵌ったような気がした。
《…ただ一人の主君に身を捧げるは、如何に面白味のあろう事か。
我が長き事抱き続けて来た、我が役目にあるまじき思いの答えは、主を生かす事にあろうぞ。
良かろう。
主の名を捧げよ。
されば我が、主の望みをすべて叶えん》
「…………」
男は最後の生気を名に込め、微かに呟き、事切れる。
光の塊はそれを見届けると、緩やかに走り出した。
真の主を失った、馬の手綱を取って。
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