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季節は秋。
枯れ葉がちらほらと木の枝から抜け落ちたりしている。
肌寒い風もまだなく、二学期も始まったばかり。
学校に向かう一人の女子中学生の姿があった。
神楽明日香という名のどこにでもいる少女。
「あ……また……」
明日香は三日程前から自分が奇妙な行動を取っている事に気づいた。
一つは通学路にある佐藤という家の前で立ち止まってしまう事。
人一倍好奇心の強い明日香は、先日この家を訪ねてみたが、二人の仲の良い若いカップルが暮らしているだけの普通の家だった。
だが、家の主の佐藤達郎さんと、その彼女である鈴木奈美恵さんとは、以前にどこかで会ったような気がするのだ。
気になってその事を話してみたが、二人は首を捻って少し考えた後、会った事はないはずと答えたのだった。
二つ目は明日香も通っている学校で、毎日のように屋上でボーっとしている事。
自分でも何がしたいのかさっぱりなのだが、気づいたら屋上でボーっとしていたりする。
特に何もないし、一般生徒もあまり立ち寄らない場所だ。
そういえば、何故か明日香は空が異様に気になるようだった。
無論、自分でも分からない。
最後に隣のクラスの工藤健太という生徒が気になる事。
恋をしているから……そんな理由なら、まだこんなに悩んだりはしないのだが、はっきり言ってそれはない。
工藤健太は喧嘩が好きな不良と聞いている。
明日香の一番嫌いなタイプだし、第一まだ一度も話した事のない生徒だ。
そんな生徒を好きになるような自分ではないと確信は持てる。
しかし、それなら何故気になっているのか。
こっそり工藤健太を観察してみたが、毎日飽きもせずに喧嘩をするだけの男子だった。
「……変なの……」
そう言って今日も佐藤さん宅前を後にする明日香。
毎日がつまらないと考えた事は結構ある。
好奇心旺盛な明日香は普通過ぎる毎日に飽き飽きしていたのだ。
何か……ほんの少しだけでもいいから、非現実的な何かを見てみたかった。
(毎日馬鹿な事して……ん、馬鹿な事?)
明日香はそこで自分のしている奇妙な行動に違和感を感じた。
コレこそが明日香の待っていた非現実的な何かではないかと、少しだけ考えてみる。
「まさか、ね」
だがやはり、結論はそんな訳ないで終わる。
三つの共通点が分からないし、それらが導き出す答えもまた、いくら成績優秀な明日香でも分かるものではなかった。
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