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昼休みの学校。
明日香はまた屋上に来ていた。
晴天の青空には一点の曇りもない。
「……何してんだろ……」
ここにくると、何だか悲しい気持ちになる。
理由なんて全然わからないのに。
「い、いたー!」
「あ、ホントに!」
そんな幻聴まで聞こえてきた。
(って、幻聴?)
明日香は周りを見渡してみる。
だが誰の姿もなかった。
「上よ」
二度目だ。
声に従い空を見上げると、太陽に重なって何かの影が二つ映る。
「まぶしっ……え……」
目が慣れて、影の正体を見て、明日香は声を失った。
手のひらサイズの小さな人間が二人、明日香を見ている。
背中には妖精を思わす羽が二枚ずつ。
「明日香ちゃん、捜しましたよ」
「アレから何日経ったか……三日ぐらい?」
二人の妖精のような生き物は、絶句する明日香を置いて話を進める。
「……何、コレ……」
やっと出た言葉だった。
どうして自分の名前を知っているのか?
それ以前にこの小さな人間の形をした生物は何か?
疑問は明日香の脳内を飛び交う。
「何って……そりゃ小さくなったけど、ウチらがわからない?」
明日香はとりあえず頷いておいた。
「まさか……記憶が消されてるんじゃ……」
『記憶』。
明日香の脳は何かを思い出そうとしていた。
とても大切な何かを忘れているような感覚がある。
忘れちゃいけないという感覚。
明日香は好奇心に押され、
「二人の……名前は?」
そんな事を聞いていた。
妖精みたいな二人の名前を聞いてどうすると思う反面、聞かなきゃ解けない謎がある気がした。
「テンコですよ!」
「マコだよ!」
二人の名前を聞いて、明日香の中にたくさんの思い出が入ってきた。
勇輝との出会い。
健太との出会い。
天子と魔子。
たくさんの刺客達。
「あ……あーッ! 思い出したーッ!」
「えっ!?」
「思い出す? そんな事ってあるのかな……?」
「二人が小さくなった理由はあとで聞くとして、まずはあの馬鹿の記憶も戻さないと!」
馬鹿とは当然健太の事である。
屋上をあとにした明日香とミニチュアな二人は、学校中を探し回る。
聞いたところによると、グラウンドで喧嘩の最中だとか。
何の躊躇もなく、グラウンドへ向かった明日香は、今にも始まりそうな喧嘩の輪の中に入り、健太を引っ張って屋上まで連れて行く。
「何やねん!? いったいわいに何の用……が……?」
健太の目の前に妖精二人が姿を現す。
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