毎日に違和感

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「それで、私に会いに来たのか」 そいつはリアルホームレスだった。 天子と魔子の感知能力で捜し出したのは、以前戦った刺客の一人――天使ホルスである。 汚らしい格好で焚き火をする様は、さながら職を失った男の姿。 いや、任務に失敗し、本当に失ったのだから、あまり笑えないが……。 「勘違いするな。コレは人間界を生き抜く為の仮の姿」 強がっているようにしか見えなかった。 「いい話があるわよ? 私達に協力してくれたら、アンタにいい仕事紹介してあげる」 「何だと!?」 明日香の提案にまんまと食いついてきた。 周りからの視線を感じたホルスは、慌てて咳払いをして誤魔化す。 「ま、まあ……戦いに敗れた私には、勝者に従う義務があるからな」 「それは人生の敗者として?」 「違う!」 「どっちでもいいわよ。それで、協力はしてくれるの?」 「……良かろう。私はもう、元の世界に未練など無いからな」 偉そうな態度だが、あっさり承諾していた。 潔いというか、情けないというか。 少なくともこんな大人にはなりたくないとこの場の誰もが思った。 まず工藤家にやって来た一行は、健太の父親の健介、祖父の健蔵に話せる範囲で話をした。 「怪しいわ」 「怪しいのう」 ホルスの身なりを何とかしないまま訪れたのは失敗だった。 「な……怪しくなどない! 怪しいのは貴様等ではないか! 隠しても分かるぞ……その強さ、人間が有するものではない!」 「何でアンタが偉そうにするのよ!? お願いに来てるんだから……」 慌てふためくホルスを抑え、二人に謝罪する明日香。 「まあ旅行先までは聞かんけど。健太」 「ん?」 「無事に帰るって約束出来るんなら、行ってもええで」 「そりゃあ、言われんでもそのつもりや」 「そうか。気をつけてな」 健介はそう言い終えると、手を振りながら家に戻って行った。 「……ふむ。そこの男はともかく、明日香ちゃんがいれば安心かのう」 「何を言うか、老いぼれ! 大体、私は同行など!」 「ちょっと黙ってなさい!」 「ほぐぁ!」 明日香の拳で沈むホルスだった。 その後、健蔵もすぐに許可を出してくれたが、問題は次である。 神楽家という難敵を相手にしなくてはならない。 「私の話術にかかれば、何の問題もない」 「アンタは一番あてにならないわよ! ……形だけでいいの。大人がいるという、形だけ……」 何故か、明日香の気持ちは沈んでいた。
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