《二話》イケメン執事登場

12/22
前へ
/300ページ
次へ
「だあああ! あたしに触るなあ!」  握られた手を思いっきり振りおろし、手を離させた。 「千代子さま、レディとしてですね……」 「あたしはレディではないわっ! 一般庶民の娘よっ!! それに! むやみやたらと触るでないっ!!」  ナッツさんはものすごくしょんぼりとした顔であたしを見てきた。  そ、そんな顔で見たって嫌なものは嫌なのよっ!  ナッツさんの悲しそうな表情を見ないようにして、マンションのエントランスに向かった。  エントランスの扉を開けようとしたら、すっと手が伸びてきて扉が勝手に開けられた。  開けようと思って伸ばした手はそのまま宙を切り、むなしく所在なさげにぶらぶらと揺れていた。  その手をナッツさんはそっと握ってきた。  流れるような動作が美しくて呆然とナッツさんを見ていたら、あろうことか手の甲にキスなんてしてきた。  ぎゃあああ!!!  ちょちょちょちょちょちょっと!!!  わーわーわーわー!  とにかくパニックに陥った。  ナッツさんはミルクチョコレートにはちみつでもかかっているのではないか、というくらいのあまーい笑みを向けてきた。  ぼん、という音がしたんじゃないかというほどの勢いで頭に血が上り、ゆでダコのようにあたしの頬が真っ赤に染まったのを自覚した。  そんなあたしを見て、ナッツさんはさらに笑みを深くしてあたしを見て、自然な形でエスコートしてエレベーターの前にまで連れてこられた。  あれ、自動ドアがあったはずだけど、いつの間に開けられていたの?  疑問を口にしようとした時、エレベーターが到着した。  中に乗るように促され、素直に乗り込む。  なにも言わないのに住んでいる階のボタンを押し、エレベーターは閉じられた。
/300ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2435人が本棚に入れています
本棚に追加