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「だあああ! あたしに触るなあ!」
握られた手を思いっきり振りおろし、手を離させた。
「千代子さま、レディとしてですね……」
「あたしはレディではないわっ! 一般庶民の娘よっ!! それに! むやみやたらと触るでないっ!!」
ナッツさんはものすごくしょんぼりとした顔であたしを見てきた。
そ、そんな顔で見たって嫌なものは嫌なのよっ!
ナッツさんの悲しそうな表情を見ないようにして、マンションのエントランスに向かった。
エントランスの扉を開けようとしたら、すっと手が伸びてきて扉が勝手に開けられた。
開けようと思って伸ばした手はそのまま宙を切り、むなしく所在なさげにぶらぶらと揺れていた。
その手をナッツさんはそっと握ってきた。
流れるような動作が美しくて呆然とナッツさんを見ていたら、あろうことか手の甲にキスなんてしてきた。
ぎゃあああ!!!
ちょちょちょちょちょちょっと!!!
わーわーわーわー!
とにかくパニックに陥った。
ナッツさんはミルクチョコレートにはちみつでもかかっているのではないか、というくらいのあまーい笑みを向けてきた。
ぼん、という音がしたんじゃないかというほどの勢いで頭に血が上り、ゆでダコのようにあたしの頬が真っ赤に染まったのを自覚した。
そんなあたしを見て、ナッツさんはさらに笑みを深くしてあたしを見て、自然な形でエスコートしてエレベーターの前にまで連れてこられた。
あれ、自動ドアがあったはずだけど、いつの間に開けられていたの?
疑問を口にしようとした時、エレベーターが到着した。
中に乗るように促され、素直に乗り込む。
なにも言わないのに住んでいる階のボタンを押し、エレベーターは閉じられた。
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