《二話》イケメン執事登場

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 誘拐ではない、というのは分かったんだけど……。  本当にこの人、何者?  とにかくあたしがしようとすることをことごとく先回りしてすべてやってくれるから、馬鹿みたいに後ろをついていくしかなかった。  あたし、お嬢さまにはなれないかも。  あたしの家はこのマンションの最上階にあった。  ふたり暮らしにはもったいないくらい広い間取りで、ここを売り払ってもう少し狭いところでもいいと思っていたけど、駅まで徒歩五分の好立地、には勝てなくていまだに引っ越せないでいた。  ナッツさんは家の扉の前に立ち、あろうことかポケットから鍵を取り出して……。 「なんでうちの鍵を持っているのよっ!?」  あせって自分の制服のポケットを確認した。  ……ない。  もしかして、リムジンの中で密着してきたときに盗られた!? 「手癖の悪い執事ねっ!」  罵声にナッツさんはそれはそれは素晴らしい笑みであたしを見て、 「おほめいただき、ありがとうございます」  と優雅にお辞儀までしてきた。  ほめてないわっ!!  あれにはあんな目的があったのか、と思ったらあんなにドキドキした自分がバカみたいでさらに疲れがプラスされた。  ナッツさんはあたしの鍵で家を開け、ドアを開けてくれた。  あたしはぎろり、とにらんで 「ここまでで結構です。入ってこないでよっ!」  ナッツさんが持っているかばんと家の鍵を奪うようにして受け取り、ドアを閉めようとした。 「チョコ、お帰り」  あたしの声を聞きつけたらしい父が太い身体を揺らしてにこにこと玄関にやってきた。  こんな時間に帰ってきてるって……。
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