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「彼の名前は橘圭季(たちばな けいき)。チョコ、きみの婚約者だよ」
へぇ、婚約者。
やっぱりおと……。
こっ、婚約者っ!?
「だ、だれのっ!?」
「千代子、きみの」
父はにっこりとほほ笑み、あたしを見ている。
「うん、仲は悪くないみたいで、ボクは安心したよ。仕事があるからボクは会社に戻るね。チョコ、今日は遅くなるからボクのご飯はいいよ。きちんと戸締りして寝るんだよ」
父はそれだけ一気に言うと、その巨体に似合わない敏捷さであっと言う間に玄関に向かって出ていった。
「お、お父さんっ!?」
あたしが声を出した時はすでに父は玄関から出ていった後だった。
無情にも鍵をかける音が鳴り響く。
家の中には、名前しか知らない見知らぬ青年となんとなく危険な香りのする執事。
……なんだ、この取り合わせは。
あたし、なにか悪いことした?
授業中にお腹がすいたからってこっそりチョコレートを食べたのがいけなかった?
本当は無塩バターなのにないからいいや、と思って普通のバターでケーキを焼いたのがいけなかった?
あとは……あとは……。
意外に思い当たらないものね、悪い事って。
思ったよりも善人だったようで、自分にほっとした。
……いや、ほっとしたところで状況はまったく変わらないから!
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