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「お昼、まだ食べてないんだろう?」
脈略もなくいきなりそう聞かれて、驚いて橘さんを見た。
「なにが食べたい? おれ、作るぞ」
橘さんはソファから立ち上がり、キッチンへと向かう。
「あああ、あたしが作りますっ!」
お客さん(?)に作らせるなんて、とんでもない!
あわてて止めに入ると、
「あれ、本当に雅史さんからなんにも聞いてないの?」
橘さんは歩みを止め、あたしに向き合う。
聞くもなにも、まったくもってなにがなんだかわかりませんっ!
「橘さんがあたしの婚約者というのも今、初めて知りましたっ!」
橘さんは楽しそうに口角をあげ、あたしを見た。
「聞いてないんだ。……じゃあ、おれも教えない」
うっわー。
なんですか、それっ!?
新手のいじめ?
後ろではナッツさんがおかしそうにくすくす笑っている。
「ほら、那津。おまえもできるんだろう、千代子さまにとびっきりのお昼をごちそうしてさしあげよう」
ナッツさんはジャケットを脱いでソファにかけた。
ベスト姿も素敵……。
なにを見とれてるんだ、あたしっ!?
「千代子さま、見惚れていましたか?」
ナッツさんは横を通り過ぎる時に耳元にくすりという笑みとともにそう囁いてキッチンへと向かっていった。
きぃ、なによあれっ!
完全に思考を読まれてるじゃない、あたしっ!!
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