2435人が本棚に入れています
本棚に追加
「千代子さま、お食事の時間でございます」
少し遠慮がちな声と手に、目が覚めた。
目を開けると、薄暗くて寝ている間に夜になってしまったことを知った。
それよりも……。
このテノールの声、だれだっけ?
寝ぼけた脳みそで布団の中でまだまどろみながら考える。
「チョコちゃん、起きないの? 襲っちゃうよ」
その言葉と同時に、あたしの上になにかがのしかかってきた。
「!?」
薄暗闇の中、人のシルエットが目の前に浮かびあがり、ものすごくあせった。
「な、なにするのよっ!?」
目の前になぜかナッツさんの整った顔があり、心臓が口から飛びでそうになった。
「なかなか起きないから、襲っちゃおうかなぁ、と」
そうしてナッツさんはあたしの身体の左右に手を置き、その腕で身体を支えた状態で見下ろしていた。
「寝顔もかわいいけど、寝起きのちょっとボーっとした顔もかわいい」
にっこりと微笑まれ、頬が赤くなるのが分かった。
「照れてる。やっぱりからかうと楽しいなぁ」
先ほどのセリフはからかいのために言われたものだと気がつき、ムッとして布団の中からナッツさんの身体をぐい、と押し上げる。
「ナッツさん! 起きますから布団から降りてくださいっ!」
ナッツさんは素直に布団から降りてくれた。
こういうところは意外に素直なのよね、この人。
そんなことを考えながら身体を起こし、ベッドから降りる。
「夕ご飯、出来てますよ。冷めないうちに食べましょう」
チョコレートがとろけそうな笑みを向けられた。
だいぶ耐性がついてきたようで、これくらいなら頬が赤くなる、ということはなくなってきた。
なんだかこの人、二重どころか三重人格っぽいのよねぇ。
短い付き合いだけどなんとなくそれは分かってきた。
最初のコメントを投稿しよう!