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足を踏み出したのを見て、ナッツさんは前を歩いて部屋のドアを開けてくれる。
廊下に出ると、電気がついていて少し眩しくて目を細める。
キッチンに向かうと、橘さんが立ってなにかを味見しているようだった。
「よし、完璧だ。あ、おはよう。よく寝ていたみたいだね」
大きな瞳を少し細め、橘さんは笑顔を向けてくれた。
「すみません。甘えて眠っちゃって」
お手伝いをしようと橘さんのいるところに向かおうとしたら、ナッツさんに腕を掴まれた。
「千代子さまはこちらへ」
椅子を引かれて、座るように促される。
座らないとなにかしてきそうな目をしていたので、お客さんに昼食のみならず夕食まで作らせてしまったことに罪悪感を覚えつつも椅子に座る。
目の前のテーブルにはすでにほとんどの料理が出揃っているようだった。
サラダに焼き魚、小鉢が何品か。
「あのっ、お客さんにご飯を作らせるのは」
そこまで言ったあたしの言葉に橘さんは目を丸くして、
「チョコは本当に雅史さんからなにも聞いてないんだ」
面白そうな表情であたしを見ている。
そういえば、お昼寝前にもそんなことを言っていたような気がするけど……。
「さっぱりなんのことか見えてこないのですけど?」
橘さんは笑みを浮かべたままご飯と汁物を装ってお盆に乗せてテーブルまで持ってきた。
「まあ、そのうち分かるよ」
楽しそうな響きを乗せて、橘さんは目の前にご飯とおみそ汁の入った器を置いてくれた。
「じゃあ、食べようか」
橘さんの笑みを合図に、あたしたちはご飯を口にした。
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