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橘さんは目をまん丸くしてあたしを見て、ふっと肩の力を抜いて微笑んだ。
「からかって悪かった。気分を害したようだったら申し訳ない」
そうしてあたしに向かって頭を下げた。
そこまでしてほしくて発した言葉ではなかったので、ものすごくあせる。
「や、いや。た、橘さんっ! そこまで気にしていませんから!」
あわてて橘さんに向かって頭を上げるように言った。
ちらり、と橘さんはあたしを見て、
「チョコ、結婚したらきみも『橘』という姓になるのに未来のだんなさまを名字で呼ぶのはどうかと思うんだが」
け、結婚っ?
未来のだんなさまっ!?
さらりととんでもないことを言われ、顔は熟したトマトより真っ赤になってしまった。
婚約者、という言葉は確かにそういう意味のものなんだけど……。
日常的に男の子と言葉を交わすことがない、と言い切っていいくらいの状況のあたしには刺激が強すぎた。
「で、では、下の名前でお呼びすればよろしいのでしょうか……?」
「ケイでもケーキでも圭季さまでも好きなようにどうぞ」
赤墨色の瞳を細めてにっこりと微笑まれ、あたしの顔は完熟トマトを通り越してなんだか変な色になっているのではないか、というくらい顔に熱を持っていた。
とりあえず圭季さま、はあり得ないわよね。
そうしたら……チョコにケーキ。
なんだかお腹が空きそうだわ。
よし、圭季さん、と呼ぶことにしよう。
心の中でそう決めた時、圭季さんはさらに頬を緩めて、
「チョコがどう思っているのかはともかく、おれはチョコだからこそこの婚約話に乗ったんだ」
意味が分からなくて首をかしげた。
あたしだから?
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