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「あーえと。いや、実はまだ食べたことないんだけど、雅史さんの話を聞いているとお菓子作りの姿勢というか……」
しどろもどろ、という感じだったけど、その説明がしっくりきたのであたしはそれ以上、追求することはやめておいた。
それよりもお父さま。
会社で娘の話をしないでくださいっ!
先ほどあんなに『自分ではなくてあたしの作ったお菓子に惚れたのか』とがっかりしていたのに、圭季さんの言葉にすっかり舞い上がってしまったあたし。
お菓子が大好きな父に育てられたあたしは、お菓子作りに関してはかなりのこだわりをもって作っている。
無塩バターで作らないといけないところを普通のバターで作ったり、ということはたまーにするけど、最近、塩スイーツが流行りだからいいのよ! と思って作ったら、思ったよりも美味しくできた。
『けがの功名』だったのよっ!
「あ……」
あたしはふと、思い出してしまった。
今日、クッキーを焼こうと思っていたのに!
壁にかかっている時計を見ると、すでに二十二時を過ぎていた。
今から作るには遅すぎる。
諦めることにした。
「二十二時過ぎてますけど、おふたりとも早く帰ってくださいね」
圭季さんとナッツさんは顔を見合わせる。
そして、圭季さんはおもむろに口を開いた。
「今日からおれたちの家、ここになったんだ」
はい?
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