《三話》立花センセ、ファンクラブ!?

9/23
前へ
/300ページ
次へ
 聞き間違いかと思って、聞きなおした。 「圭季さんのおうちって、どちらなんですか?」 「おれと那津、今日からここに住むことになったんだよ」 「はい?」  意味がわかりませんが。 「雅史さーん、どうしてあの人はいつも肝心なことを言わないのかなぁ」  圭季さんが頭を抱えて父に向かって恨み事をつぶやいている。  圭季さん、分かるわ。  その言葉、激しくよくわかる。  父は昔からわざとなのか天然なのか、肝心なこと「だけ」言わない、という特技(?)を持っている。  意図的にあれをしているのならかなりの悪魔なんだけど、大切なことや肝心なことになればなるほど、言い忘れる、らしい。 「本当に雅史さんはおれとチョコのこと、話してないのか」  ええ、さっぱり。  いまだにこんないい男が自分の婚約者、と言われてもなんの冗談かとしか思えていませんが。  エイプリルフールは終わったばかりだから、どうやらその類ではないらしい、ということしか分からない。  朝起きたらこの話はなかった、となりそうなくらい、あたしにとっては青天の霹靂(へきれき)状態。 「この婚約話、そもそもがおれの父と雅史さんの間で最初、口約束で決められたことだったらしい」  橘製菓の現社長である橘和明(たちばな かずあき)さんと父は幼なじみ、らしい。  だからと言って便宜をはかってもらってここに就職しただとか部長になっただとかはないみたいだけど。  それよりも父はかなりの天然なので、就職して初めて幼なじみの和明さんが橘製菓の跡取り(当時)、ということを知ったらしい。 『和明からよくお菓子をもらっていたんだけど、言われて納得したよ』  ……どれだけ天然なんですか、お父さま。  製菓会社に就職したらもっとお菓子が食べ放題! と思って橘製菓に就職することにした、という話を聞いた時は……さすがわが父、と思った。  和明さんからもらっていたお菓子も相当量あったらしいのに、さらにほしい、ってどれだけお菓子が大好きなんだか。
/300ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2435人が本棚に入れています
本棚に追加