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「分かりました、お父さま。あたしが悪うございました」
暖簾に腕押し、とはこのことを言うのか。
ひとつ賢くなったよ、うん。
「分かればよろしい」
そう言って父はにっこりと微笑み、椅子に座ろうとした。
ナッツさんが気がついてレストランのウエイター真っ青な美しく無駄のない動作で椅子を引き、父を椅子に座らせ、そのまま流れるような動作で椅子を再度引き、座るように目で促された。
しぶしぶ椅子に座った。
ナッツさんは一礼して、キッチンへと下がっていった。
そしてすぐにトレイに湯呑みを乗せて戻ってきた。
香ばしいにおいをさせた熱々のほうじ茶が入った湯呑みを父とあたしの前に置いてくれた。
そのいいにおいにほっとした。
ナッツさんはトレイを片手に持ち、再びキッチンへと消えて行った。
「チョコ、ボクは高校を卒業してすぐに嫁にやろうとは思っていないんだよ」
父は湯呑みに入ったほうじ茶をふうふうと冷ましながらそう口を開いた。
父の意外な言葉に、目が点になった。
「だけど、チョコがそう望むのならボクは反対しない。母さんが早く死んだことでチョコにはたくさん苦労をかけたし、迷惑もかけてきた。……ボクはチョコには人よりもたくさんの幸せを知ってほしいんだ」
その幸せとこの同棲生活がどう結び付くのか、頭の中にはクエスチョンマークがいっぱいだった。
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