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「ねえ、お父さん」
あたしが言葉を発せようとした時、キッチンから美味しそうなにおいをさせて圭季さんが朝ごはんを持って現れた。
「お待たせしてすみません」
「待ってないよ。むしろ申し訳ないね、ご飯をすっかり任せてしまって」
父の言葉に圭季さんはにこにことしていた。
「だれかに食べてもらえるのが、おれにはうれしいですから」
あ。
圭季さんの言葉に心打たれた。
あたしと同じ考えをしている人がいる。
父がお菓子好きなのもかなり影響しているけど、あたしがお菓子を作る理由。
食べてもらえることの幸せ。
作るのは正直言って、面倒だと思うこともある。
作るのはいいけど、片付けるのが面倒で億劫に思うことがある。
だけどお菓子を作ることをやめられないのは、その先に食べてくれる「だれか」がいるから。
食べてくれるだけでうれしい。
さらに「美味しい」と褒めてくれたらもっとうれしい。
父はこういうことをあたしに気付いてほしくて「同棲」だなんてことを言いだしたのかな?
圭季さんとナッツさんは魔法のようにテーブルに次々と料理を並べていく。
あたしが作る朝ごはんは食パンに適当にちぎった野菜とインスタントのスープとベーコンか卵。
だけど圭季さんがつくってくれた朝ごはんは和食ベースで、ご飯におみそ汁、そして昨日の残りだけど少しアレンジしたものが二・三品乗っていた。
素晴らしい。
圭季さんは父の横に座り、ナッツさんはあたしの横に座る。
「いただきます」
父の合図とともに、あたしたちは朝ごはんを食べ始めた。
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