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「……で、仕事のことが頭から離れない、と」
「そうなんです」
「……ふぅん。ほんとに一時も?」
「はい。寝ても覚めても頭の中が仕事、仕事で」
――なんでこんなところに来てしまったのだろう。まだ仕事の途中だったのに。
ササカワは、ちらりと腕時計に目をやり、目の前に座る男に視線を戻した。
初対面の人間の前だというのに、眠そうな顔の男は机に頬杖をついたまま、しゃべりにくそうに口を開く。
「なるほどね、『カイシャニンゲン』ってなわけだ。大変だねぇ」
間延びして抑揚に欠けた言葉の羅列に、ササカワは返事をしそびれた。
今夜も、もう何日続いているかわからない熱帯夜だ。確かにダラけても仕方ないかもしれない。
……しかし、それにしてもダラけすぎではないか?
まるで実家の縁側で寝こける老野良猫のような奴だな。ぱっと見、自分とさほど変わらないくらいの歳だろうに。
何とはなく、そう思う。
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