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車中
「それで。いきなり何で温泉なんです榎さん」
常より二割は増した不機嫌な声音で中禅寺が言った。
「うははははーッ関!この関猿ッ」
「や、やめ…うぅ…榎さん…」
そんな中禅寺の言葉はしっかりと聞き流し、無意味に高笑いする榎木津が、隣に座った、否、座らせた関口の頬を引っ張る。
「京極。この馬鹿には何言ったって無駄だ。ほら馬鹿探偵。いい加減関口いじめるんじゃねェよ」
ハンドルを握り、いま忌ましげに木場。
「それはそうですがね旦那。僕には仕事というものがあるんですよ。ああ、僕だけじゃない。後ろで賢明にも固まっている榎さんの志願下僕3人集だって仕事があるじゃあないか。…榎さん、アンタはいい加減関口君から離れたらどうです?」
その隣には中禅寺。両者の声には怒気が含まれている。
「イヤダ」
「うぅ…」
勿論、相手はあの榎木津。そんな声はものともせずに、間髪入れず否定の声。
矢ッ張り発音がおかしい。
「下僕3人集っていうのはなんですかぁ中禅寺さん~。あっ、関口サン、そういう顔、危険ですよぉ」
「そうです。この益田君はともかく私は書生ですからね、下僕なんかじゃあない。」
「そうですよぅ師匠!僕には師匠がいるじゃないっすか。あ、センセイの下僕でもいいなぁ」
下僕三人衆、口々に喚くが一向に相手にはされない。
流石は下僕。
榎木津が強制連行したのは6人。
榎木津以外皆不機嫌な気を纏ったまま、秘湯天蓋温泉郷に辿りついたのだった。
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