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かなり険しい山道をのたのたと歩く榎木津一行。
いや、榎木津だけは元気だ。
ひとり先頭を、無意味に木々を蹴り倒しながら歩みをすすめている。
その後方では。
「はぁっ…はっ…ぜェ…も、もう僕は、駄、目…だ」
適当な木の棒を杖がわりに、必死の形相で歩んでいた関口が、その場に崩れ落ちた。
だくだくと汗が流れ、とても暑そうであるが、顔色は驚くほど悪い。白を通り越し青に染まっている。
そんな関口の後ろを歩く鳥口青年。体力だけが自慢だ。
据え膳食わねばなんとやら。何か違うような気もするが、目の前のチャンスに、意を決して声をかける。
「あ、先生。僕が支え…」
「しょうがねェな。おら関口、捕まれ」
言うか言わぬかのうちに後ろから木場の声。
息絶え絶えの関口の腰をぐっと掴み、引き寄せた。
「だ、旦那、はっ…あ、有難、う」
「慣れてるからよ隊長」
にやりと笑った木場。
「うへえずるいっす」
思わず鳥口が呟いた。
すると後ろから不穏な空気。
「・・・ちっ体力馬鹿が」
すれ違い様に、悪鬼の如き形相で中禅寺が吐き捨てる。
「し、師匠!?」
中禅寺あらからぬ暴言に目を剥く鳥口。
「君もだよ鳥口君。僕の上に立つなんて100億年は早いよ」
凍て付くような視線を向けられ、まるで榎木津のようなことを言われ見が竦む。
「う、うへえ、違います。僕ァただ、先生が辛そうだから荷物でもひとつ・・・」
「そんなに持ちたいのなら僕の荷物でも持たせてやろう」
「えぇっ師匠のですか」
「何か文句でもあるかい」
「うへえ、ないっす」
石をも貫くような冷徹な中禅寺の死線に鳥口は涙を飲んだのだった。
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