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「関口君。聞いているのかい関口君。突然人の家へ上がり込むのは何時もの事だが、一体何を呆けているんだい。まあ、それも今に始まった事じゃあないけどね。今日は何時にも増しておかしい。それとも、ついに君は目を開いたまま眠れる技でも会得したのか」
進歩したじゃないかと中禅寺が微笑った。
そんな相も変わらない嫌味にも、どうしてか思う。
「――寝てなんかいないよ。――ただ――」
ただ、何だと言うのか。
何を言うべきなのだろう。
言って、私は何をすると言うのか。
「――ただ、眩しい、と思ったんだ」
結局、理由など見いだせず、思い浮かんだままを言の葉にのせた。
「今日は曇りだよ関口君。陽はでていないさ」
中禅寺の容貌がいぶがしげに変わる。
そう云えば、今日は本を読んでいないのか。感じる違和感はそれだからだろうか。
ぼんやりとそんな事を思いながら、私の口は己の物で無いかの様に、淀み無く喋った。
「――違う。太陽じゃない。――――君、そう君がとても眩しい」
「――僕が、かい。何だい突然。――榎木津辺りと間違えているんじゃないか」
口の端を少しだけ上げて中禅寺が言った。
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