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行くな、と言われれば余計行きたくなる。
私はそういう人間である。
行くな、と言われたこの場所へ来てしまった事に対しての罪悪感と、そのお陰で増している高揚感。
そんなものに包まれながら、兎に角、私はふらふらと、何かに誘われるように此処へと辿り着いたのだ。
石段を上り鳥居をくぐる。
視界がひらけた一瞬に、風が凪いだ。
ぽっかりと、私の周りに虚無の空間がわく。
「私に会いに来たのかね」
低い低い脳内に沁みる声。それは上から私に響いた。
「あいつには止められただろう」
馬鹿の様に呆けていた私に、揶揄する声。
「ねえ、関口君」
唐突に己の名前を呼ばれ、私はびくりと背筋を伸ばす。
「…な、何で、僕の名前を…」
やっとの事で言葉を紡ぐ。
相変わらずごもごもとして聞き難かろうが、人見知りをし、極度の緊張状態に陥る私にとってこれは上出来だ。
「関口君。この世にはね、不思議な事など何もないのだよ」
「…あ…ぅ…」
にやりと、口の端を上げる笑い方で、同じ言葉を、中禅寺と同じ言葉を口にする。
私は驚きの余り失語症に陥ったかのようにうまく喋ることが出来ない。
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