10人が本棚に入れています
本棚に追加
/22ページ
手を止めて、はぁと息をつく。
久しぶりに思い出した。
それは今日が七夕だということに関係しているのだろうか。
さて、この記憶は何年前のものであっただろう。
あれは暑い暑い日だった。
汗まみれの顔を袖で拭いながら、店の暖簾を潜った小さな影は中に「ただいま」と声を掛けた。
「ねぇ、お母ちゃん」
寺子屋から帰ってきたまだ幼き少女お常は、店の奥にいた母にふと声を掛けた。
「なんだい」
「七夕の伝説ってなぁに?」
「七夕かい?それはね……」
古着の修理をしていた母は手を止めてお常の方を見た。
「機織りが上手だった天帝の娘の織姫は、昼夜織物をしていたんだがね、いい歳になっても身形を整える暇すらなかったんだ。
独り黙々と作業する織姫を哀れんだ天帝は、同じく働き者であった牛飼いの牽牛と結婚させてあげたんだ。
しかしこれがまた、二人は仲睦まじくてね、二人とも仕事をしなくなっちまうんだ。
怒った天帝は二人を引き離すんだよ。
しかしあまりに哀れで、年に一度、七夕の日の夜だけに天の川で逢うことが許されたんだ」
最初のコメントを投稿しよう!