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手を止めて、はぁと息をつく。 久しぶりに思い出した。 それは今日が七夕だということに関係しているのだろうか。 さて、この記憶は何年前のものであっただろう。 あれは暑い暑い日だった。 汗まみれの顔を袖で拭いながら、店の暖簾を潜った小さな影は中に「ただいま」と声を掛けた。 「ねぇ、お母ちゃん」 寺子屋から帰ってきたまだ幼き少女お常は、店の奥にいた母にふと声を掛けた。 「なんだい」 「七夕の伝説ってなぁに?」 「七夕かい?それはね……」 古着の修理をしていた母は手を止めてお常の方を見た。 「機織りが上手だった天帝の娘の織姫は、昼夜織物をしていたんだがね、いい歳になっても身形を整える暇すらなかったんだ。 独り黙々と作業する織姫を哀れんだ天帝は、同じく働き者であった牛飼いの牽牛と結婚させてあげたんだ。 しかしこれがまた、二人は仲睦まじくてね、二人とも仕事をしなくなっちまうんだ。 怒った天帝は二人を引き離すんだよ。 しかしあまりに哀れで、年に一度、七夕の日の夜だけに天の川で逢うことが許されたんだ」
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