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芸術家
「まるで作り物だな」
晋助は化粧を嫌う。
ただでさえ赤い唇に紅を差してどうするだとか、白い肌に白い粉を塗りたくるのが解せないだとか、他にも三つ四つの例を挙げて語る。
女は生が一番に美しいのだと。
覆いかぶさって私を抱き遊ぶ晋助は、まるで戯れる猫。
しきりに交わした接吻で唾液に濡れた唇を、半ば乱暴に拭われる。
跡を残さず落ちた紅に満足したのか、晋介は機嫌の良さを滲ませた表情で私を見下ろしていた。
貴方に逢うのだからと折角着飾った藤の小紋も繻子帯も、あれやこれやと言う間も無しに憐れ無惨にはぎ取られ。つまり私に残るはこの身一つ、それだけ。
何だか寂しい気もするけれど。見上げた天井、視点を合わせれば嬉々とした妖笑。
それで全てが満たされる。
嗚呼、もう何もかも貴方に任せてしまいませうか。まっさらな私を差し出しませうか。
「ククッ…ほらな、やっぱり化粧も何も必要ねぇ。お前はこのままで充分、」
“美しい”と、そう言いながら食指でもって私の腹をつつと撫で下ろす晋介。
腹が焼けるように熱を持つ。
さぁ、
口火は切って落とされた。
赤にでも黒にでもどうぞお好きな様に私を染めて、一つでも二つでそして私は貴方好みに作り変えられ、高みを目指す。
さながら貴方は、
あるていすと(芸術家)だ。
〔END〕
この愛は模造ダイヤの
偽物なんかじゃない筈だ
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