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秘めし幸福
原料が一緒なんだから同じだなどと、つまらない屁理屈こねて米を食う代わりに酒を飲む様な男が。
なんだい、今日は帰って早々人の顔を見るなり腹が減っただなんて。
あれまぁ珍しいことで。
「急に飯って言われても夕餉の余りくらいしか…」
「ああ、夜食程度だ茶漬でも何でも良い」
「夜食ってアンタ、朝食の間違いだろ?もうお天道さまも上っちまうよ、全く朝帰りもいい加減に」
「ふん、俺ァ口答えする女は好きじゃねぇな」
「あらそう、私は自己中心的に物を考える男は好きじゃないけどね」
「…うるせ。いいから飯」
炊飯器を開ければ炊きたてと何ら変わらぬ熱々の白飯、電子レンジという箱に入れりゃほんの数分で作りたてみたいな暖かいおかず。
本当に便利な世の中になったものだと、しみじみ思う。
用意した質素な飯に文句も言わず目を瞑り手を合わせる晋助に、昔平伏しながら横目に見た武士の姿を垣間見て、また一度文化の変遷に感謝した。
武家の生まれの晋助と貧乏農家の私が愛し合ったり喧嘩したり、対等に付き合おうなんざ時代が時代なら一寸でも考えられる事ではなかったのだ。
まったく天人文化様々じゃないかね、皮肉にも。
士農工商の廃止と四民平等の定着に、私達最下層の民は大いに喜んだ。
以前まで禁じられていた学問や芸を自由の名の元で学び、誰しもが字の読み書きが出来る様になった。
冬の極寒の中で霜焼けに耐えながら草鞋を編む必要も、夏の炎天下の中で渇水に苦しむ必要もなくなった幸福に溢れていた。
しかし武士は、御侍は違かった。
愛国心と自尊心。
これまでに大小幾つもの戦争が起き、幾人もの侍が命を落とした。
その中に晋助の旧友や恩師がいた事も聞いた話で知っている。
黙々と箸を進める晋助を正面に見据え思う、アンタは幸せなのだろうかと。
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