願い

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部屋を出て、人目を確認しながら最上階に着く。 そこから更に階段を一階分昇ると、小さな南京錠がかけられた、鉄の扉が目の前に現れる。 亮は包丁の柄の部分で、力いっぱい南京錠を叩き付けると、呆気なく壊れてしまった。 扉のノブに手をかけ開き、先に俊哉を押し出す。 地上12階建てのマンションの屋上へと、連れ出されたのであった。 「こっちだ」 淡々と指示を出す亮。 俊哉の腹部には、月の光りでギラリと光る包丁が、容赦なく突き付けられていた。 周りを見渡すと、今いる場所より高い建物は、遠くに見えるばかりであった。 時折吹く夜風は湿り気を帯、肌に纏わり付くようで、気持ち悪さを感じずにはいられなかったのである。 少し歩かされ辿り着いたのは、屋上の淵。 白いフェンスが胸ほどの高さで、張り巡らされていたのである。 俊哉の顔は、先程殴られた為に出来た痣が腫れ上がり、すでにどす黒い色を浮き立たせていたのだった。 小さく感情の無い声で呟く亮。 「ここでいい。覚悟は出来たか?」
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